06JUN MURAKAMIしずる

みずからの言葉とともに、新たな一歩を

同じ経験からでも得る思いは、人それぞれだ。「私にも何かを成し遂げることができた」「一段と深く、走る喜びを感じた」「もう二度とこんなつらい思いはしたくない」――芸人・しずるの村上純さんは、42.195kmの先に何を見たのだろうか? ランと心身の密な関係を踏まえつつ、次なる展望を語ってもらった。

Photo:Imai Takashi/Text:Sakura Sugawara

――2015年3月の「淀川 寛平マラソン」で、自身初のフルマラソンに挑戦されたんですよね。

はい、前半20kmは1時間45分くらいで走れて、すごく楽しかったです。一般ランナーさんに「かなりいいペースですね」と言われ、自分でも4時間切れるんじゃないかと思いました。フルは一回も練習したことがなかったけど、折り返しの地点まで余裕でしたね。その数十分後に襲い来る悪魔の時間をつゆ知らず、村上はニヤニヤと走っていった……って感じで。 そして25km手前くらいかな。体が「バチーン!」となって、急に膝が上がらなくなった。僕には、20kmをそれなりに速く走れる筋持久力しかなかったんです。だから体がびっくりしちゃって……「34年間きみと寄り添ってきたけど、ここからまだ走るなんて聞いてないよ」みたいな。最後はもう競歩みたいになりながら、6時間くらいかけてゴールしました。

――走り終わって、いかがでしたか?

終わったあとにダメージが大きかったのは、体よりも心です。ゴール直前なんか悔しさと安堵で涙が出てきましたもん……名前も種類も知らない涙が。折れた心でもなんとかゴールできたのは、沿道の応援と、一緒に走ってくれた芸人たちのおかげです。やっぱり一緒にいる人に助けられる……マラソンは本当に人生の縮図だなって思いました。仕事だったら、相方に共演者、お客さん、スタッフさんとか、いろんな人に助けられてますしね。 フルマラソンで得たものは「謙虚であれ」という教訓です。人間っていうのは、調子に乗っちゃいけないんだなって……ちゃんと事前に準備をしておかないと、しっぺ返しをくらう。だから今度はちゃんと練習して、もう一回挑戦したいですね。

――お仕事では、ばっちり事前準備されるんでしょうか。

それが、練習キライなんですよね。あんまりやりすぎると飽きてきちゃうというか……でも、アドリブの効く自由なネタならともかく、僕らみたいに台詞どおりで進んでいくコントは絶対に練習したほうがいいんですけどね。相方の池田がネタ合わせしようって言ってくれるので、やってますし、こないだの単独ライブでもその練習が実を結んでいたと思います。 実は2014年の秋くらいからその単独あたりまで、精神的にちょっと落ちていて。視野が狭くなったり、頭がマイナスの状態だと、何をするにもかけ算が全部マイナスになっちゃうんですよね。だからその頃は、まったく走る気にもなれませんでした。やっぱり走ることって心身や生活と密接に関わってるから、どう向き合っているかによって自分の精神状態が現れてくる。走って気持ちを整えるというよりは、メンタルのバロメーターとして“走ること”があるんです

――単独ライブを通じてメンタルが上向きになったのは、なぜでしょう。

「よそはよそ、うちはうち」って思えたり、芸歴12年目なんてまだマラソンなら折り返してもいないって感じたり……普段はお互いネタを書くんですけど、今回は初めて池田がすべてのネタを書いてみたんですよね。だからこそ「どうやって見せていくか、笑わせていくか」という作業も、これまでとはまったく違っていて、楽しかった。次の単独ライブはきっと僕がひとりでネタを書くので、また、がらりと新しいライブになると思います。池田は演技や行間で見せるコントがよかったので、僕は“言葉”を際立たせていきたい。今までにないチャレンジをすれば、新しいゴールが見えてきて、自然と走り出せるんでしょうね。知っていることばかりやっているときは、走ってても、ただの足踏みになっちゃうから。

Photo:Imai Takashi/Text:Sakura Sugawara

PROFILE

村上純

1981年、東京都生まれ。2003年池田一真とともにお笑いコンビ『しずる』を結成。「青春コント」を代表するシュールなネタが特徴のコント師。