03ZENパルクールパフォーマー

理想の体を生み出すために、いつも新たな日常を

さまざまな場所を自由に跳び回り、駆け抜け、瞬く間にその体を運ぶスポーツ“パルクール”。国内外でも指折りのプレイヤー・ZENさんは「自身の人生観を変えてくれたパルクールを、第一線で広めていきたい」と語る。体を動かすことが好きだっただけの少年の日常を、まったく新しい方向へ導いたパルクールの魅力とは? そして、そのトレーニングの行き着く先には、いったい何があるのだろうか。。

――パルクールとの出会いを教えてください。

運動は好きだったものの、基礎の練習が全然楽しくなくて、ずっと特定のスポーツはしていなかったんです。ボールを蹴りたくてサッカーを始めたのに、まずとにかく走らされるような感じが嫌で、習い事も部活も続かなかったんですよね。そんな中3の冬、友達にYouTubeでアメリカのパルクールの動画を見せてもらい、「人間ってこんな動きができるんだ」って衝撃を受けて……同じ人間なんだから自分にも可能性があるんじゃないか、と思ったのが始まりでした。 最初は、本当に見よう見まね。どれくらいの高さなら登れるとか、ジャンプできるとか、現状がまったくわからないんですよね。だからひたすら動画をまねしてみて、自分に何ができるのか、どんな力が足りないのか、ということを思い知っていきました。

――持て余していたエネルギーを発揮できる場所が、やっと見つかったんでしょうね。

近所の公園で毎日練習して、あっという間にのめりこんでいきました。なんでこんな動きができるんだろうって考えながら、動画を一時停止したり、巻き戻したりして、何度も見る。自分の体が生かしきれていない部分を見つけて、少しずつ改良していくことの繰り返しです。でも、絶対に少しずつ良くしていけるのが楽しいし、「このポイントを直さないと次に進めない」という感覚を知ったから、練習の大切さにも気づきました。 「これ」っていうものがなかった自分の人生が、パルクールに出会ったことで、まるで雲が晴れたように刺激的になって……動画を見て感じたときの衝撃や情熱が、今も消えずに残っているんです。それはたぶん、パルクールを知ってから、一日として同じ日がないからだと思います。昨日あったことを踏まえて今日なにができるか、明日なにが残せるか、という感覚が常にあって、いつも自分が変わっていくのを感じるんです。

――高校生のときには、練習のために本場アメリカに渡ったとか?

練習を始めて半年くらいすると、動画と同じ技をやっているのに、自分のパルクールに少し違和感が生まれてきたんです。でも、何が違うのかはわからない。だから本場のひとたちを観るためにアメリカに行きました。
一緒に練習するうちに見えてきたのは、取り組み方の違いです。たとえば障害物を前にしたとき、僕たちはまずスピードや歩幅、体の動かし方を考えるんですが、アメリカでは「いや、とにかく跳べよ」という感じ。未知の課題に対してその場でどう動けるかがポイントなんです。日本人の動きは繊細だし、同じアクションをどんどん研ぎ澄まして“職人”になっていく。それはもちろん優れている点でもあるけれど、慣れない環境では応用が利かなかったりもして……でも、常にフレキシブルに取り組んでいるアメリカのプレイヤーは、どこでもいろんなことができる。その差を知ったことは、その後の練習に大きな影響を与えてくれました。自分に適したスポットにばかり行かず、あえて動きにくそうな場所を選ぶようになったり……結局はやったことのある技しかできないから、柔軟性や発想力を磨くためには、とにかく経験値を積むしかないんです。

――今は普段どんなトレーニングをしているんでしょうか。

極端に言えば、立っていても歩いていても、すべてパルクールにつながっています。何を考えるにも、僕はいったんパルクールのフィルターを通してしまうんです。今していることや見ているものが自分にどんな影響をもたらすか、その次はどんな状況が生まれるか、じゃあ今、自分に必要なのは何か。そのイメージを具体的なトレーニングと照らし合わせて、体を動かし、自分の力を向上させていくんです。
あとは、自分のなかに「師匠」と「弟子」がいますね。指導者がいないので、自分の強みと弱みを把握して、効果的な練習メニューを考えるのは自分自身。毎日練習していれば、うまくなっているところも足りないところも日々変わるし、同じメニューをこなしているだけでは能力が偏るばかりじゃないですか。だから、次に進む一番いいステップを提示できる「師匠」と、目標に向かって素直に努力する「弟子」が、同時に必要なんです。

――最後に、これからの目標を教えてください。

そもそも、自分の理想に向かってトレーニングしていく――そのツールのひとつがパルクールなので、ゴールは本当にひとそれぞれです。お腹を引き締めたいひとが腹筋をするように、腕を鍛えたいひとがパルクールで壁を登る、みたいな。そのなかで僕は、自分の欲求にすべて応えてくれる、理想の動きを限りなく正確に実現できる体づくりを目指しています。子どもが「この柵を跳び越えたい」って思う気持ちと一緒で……その出発点がすべてかもしれません。
それから、ただ技術を磨いていくだけじゃだめで、自分もパルクールに何かを返していきたい。そう考えたとき、日本のパルクール文化には、その魅力を広く伝えるプレイヤーが不足しているなと思っていて……僕がその役割を果たせたらと考えています。海外にはだいたいどこの国にもシンボルとなるようなプレイヤーやチームがいますし。だから、大会で世界一を目指しているのも、自分がチャンピオンとして君臨したいからではないんです。世界にもひけをとらないほど活躍すれば、きっともっとパルクールのすばらしさを伝えていけると思うから。僕が昔、動画を見て感じたような“可能性”を、自分のパフォーマンスでたくさんのひとに受け取ってもらいたいんですよね。

Photo:Imai Takashi/Text:Sakura Sugawara

PROFILE

ZEN
1993年東京都生まれ。パルクールパフォーマーの名で様々なメディアやステージを通じて シーンの魅力や本質を伝える活動を続ける、日本人初のプロトレーサー。15歳の時パルクールと出会い、16歳でアメリカへ渡り修行を積む。わずか3年で世界大会に出場し、予選を一位通過しファイナリストに名を連ね、その名を世界に示した。

さらに、今年8月にカナダで開催されたパルクールの全米大会「North American Parkour Championships」で優勝し、全米チャンピオンを獲得。

【オフィシャルInstagram】@ZEN_PK_OFFICIAL